慢性膵炎ノート

明るく!慢性膵炎生活

慢性膵炎の診断基準

慢性膵炎臨床診断基準2009    

厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班
 日本膵臓学会
 日本消化器病学会

[慢性膵炎の診断基準と分類]
定義:
  膵臓の内部に不規則な線維化,細胞浸潤,実質の脱落,肉芽組織などの慢性変化が生じ,進行すると膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である.膵内部の病理組織学的変化は,基本的には膵臓全体に存在するが,病変の程度は不均一で,分布や進行性も様々である.これらの変化は,持続的な炎症やその遺残により生じ,多くは非可逆性である.
  慢性膵炎では,腹痛や腹部圧痛などの臨床症状,膵内・外分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的である.臨床観察期間内では,無痛性あるいは無症候性の症例も存在し,このような例では,臨床診断基準をより厳密に適用すべきである.慢性膵炎を,成因によってアルコール性と非アルコール性に分類する.自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は,治療により病態や病理所見が改善する事があり,可逆性である点より,現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う.

分類:
・アルコール性慢性膵炎
・非アルコール性慢性膵炎(特発性,遺伝性,家族性など)

注1.自己免疫性膵炎および閉塞性膵炎は,現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う.

[慢性膵炎臨床診断基準]
慢性膵炎の診断項目
   ①特徴的な画像所見
   ②特徴的な組織所見
   ③反復する上腹部痛発作
   ④血中または尿中膵酵素値の異常
   ⑤膵外分泌障害
   ⑥1日80g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴

慢性膵炎確診:a,b のいずれかが認められる.
   a.①または②の確診所見.
   b.①または②の準確診所見と,③④⑤のうち2 項目以上.

慢性膵炎準確診:
   ①または②の準確診所見が認められる.

早期慢性膵炎:
   ③~⑥のいずれか2項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる.

注2. ①,②のいずれも認めず,③~⑥のいずれかのみ2項目以上有する症例のうち,他の疾患が否定されるものを慢性膵炎疑診例とする.疑診例には3か月以内にEUS を含む画像診断を行うことが望ましい.
注3. ③または④の1項目のみ有し早期慢性膵炎の画像所見を示す症例のうち,他の疾患が否定されるものは早期慢性膵炎の疑いがあり,注意深い経過観察が必要である.
付記.早期慢性膵炎の実態については,長期予後を追跡する必要がある.

慢性膵炎の診断項目

①特徴的な画像所見
   確診所見:以下のいずれかが認められる.

   a.膵管内の結石.
   b.膵全体に分布する複数ないしび漫性の石灰化.
   c.ERCP 像で,膵全体に見られる主膵管の不整な拡張と不均等に分布する不均一*1 かつ不規則*2 な分枝膵管の拡張.
   d.ERCP 像で,主膵管が膵石,蛋白栓などで閉塞または狭窄している時は,乳頭側の主膵管と分 枝膵管の不規則な拡張.

   準確診所見:以下のいずれかが認められる.

   a.MRCP において,主膵管の不整な拡張と共に膵全体に不均一に分布する分枝膵管の不規則な拡張.
   b.ERCP 像において,膵全体に分布するび漫性の分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不整な拡張,蛋白栓のいずれか.
   c.CT において,主膵管の不規則なび漫性の拡張と共に膵辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形.
   d.US(EUS)において,膵内の結石または蛋白栓と思われる高エコーまたは膵管の不整な拡張を伴う辺縁が不規則な凹凸を示す膵の明らかな変形.

②特徴的な組織所見
   確診所見:膵実質の脱落と線維化が観察される.膵線維化は主に小葉間に観察され,小葉が結節状,いわゆる硬変様をなす.
   準確診所見:膵実質が脱落し,線維化が小葉間または小葉間・小葉内に観察される.
④血中または尿中膵酵素値の異常
   以下のいずれかが認められる.
   a.血中膵酵素*3 が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは正常下限未満に低下.
   b.尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇.
⑤膵外分泌障害
   BT―PABA 試験で明らかな低下*4 を複数回認める.

早期慢性膵炎の画像所見
   a.b のいずれかが認められる.
   a.以下に示すEUS 所見7 項目のうち,(1)~(4)のいずれかを含む2 項目以上が認められる.
      (1)蜂巣状分葉エコー(Lobularity,honeycombing type)
      (2)不連続な分葉エコー(Nonhoneycombing lobularity)
      (3)点状高エコー(Hyperechoic foci;non―shadowing)
      (4)索状高エコー(Stranding)
      (5)嚢胞(Cysts)
      (6)分枝膵管拡張(Dilated side branches)
      (7)膵管辺縁高エコー(Hyperechoic MPD margin)
   b.ERCP 像で,3 本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められる.

解説1. US またはCT によって描出される①膵嚢胞,②膵腫瘤ないし腫大,および,③膵管拡張(内腔が2mm を超え,不整拡張以外)は膵病変の検出指標として重要である.しかし,慢性膵炎の診断指標としては特異性が劣る.従って,①②③の所見を認めた場合には画像検査を中心とした各種検査により確定診断に努める.
解説2. *1“不均一”とは,部位により所見の程度に差があることをいう.
*2“不規則”とは,膵管径や膵管壁の平滑な連続性が失われていることをいう.
*3“血中膵酵素”の測定には,膵アミラーゼ,リパーゼ,エラスターゼ1 など膵特異性の高いものを用いる.
*4“BT―PABA 試験(PFD 試験)における尿中PABA 排泄率の低下”とは,6 時間排泄率70% 以下をいう.
解説3. MRCP については,
1)磁場強度1.0 テスラ(T)以上,傾斜磁場強度15mTm 以上,シングルショット高速SE 法で撮像する.
2)上記条件を満足できないときは,背景信号を経口陰性造影剤の服用で抑制し,膵管の描出のため呼吸同期撮像を行う.

arrow  前ページ          次ページ  arrow