慢性膵炎ノート

明るく!慢性膵炎生活

膵臓のしくみと酵素(その4)

トリプシン

  トリプシンは、タンパク質を分解する酵素の一つです。タンパク質というと、私たちの体を作っている基本的な物質です。トリプシンがタンパク質を分解するなら私達の体そのものを分解してしまいそうですが、そうならないような仕組みが人体にはきちんとできているようです。
 膵臓はトリプシンという完成品を分泌するのではなく、トリプシンの一歩手前のトリプシノーゲンという物質を分泌します。その段階ではまだタンパク質を消化する作用を持ちません。ここで消化作用を発揮してしまうと、膵臓自体を消化してしまうからです。で、十二指腸への出口であるファーター乳頭を通って膵臓を出たトリプシノーゲンは、そこで十二指腸の粘膜から分泌されるエンテロキナーゼという物質と反応します。エンテロキナーゼは何をきっかけに発生するかというと、胃で消化された(乳化された)食べ物が十二指腸内に入ってくることを合図に十二指腸の粘膜から出ていくのです。トリプシノーゲンとエンテロキナーゼが反応することで初めて強力なタンパク質消化作用を持つ「トリプシン」が生まれます。
  タンパク質を分解する酵素は他にもあり、例えば、キモトリプシンというものもそうです。こちらの発生過程もトリプシンと似ています。まず、膵臓からキモトリプシノーゲンという、キモトリプシン一歩手前の物質が分泌されます。「〇〇ノーゲン」というのが「一歩手前」という意味ですかね。日本語では前駆体(ぜんくたい)と言うようです。で、十二指腸に入ったキモトリプシノーゲンは、どのような物質と反応してキモトリプシンになるのかというと、これがなんとエンテロキナーゼとトリプシノーゲンの反応の結果生成された「トリプシン」と反応してキモトリプシンになるのです。トリプシンは、それ自体が完成品なのですが、他の、キモトリプシノーゲンを初めとする多くの酵素の前駆体を活性化させる役割もあるのですね。そこでトリプシンには「鍵酵素」などという異名も与えられています。かっこいいですね。
  慢性膵炎の薬の代表格に「フオイパン」(主成分「メシル酸カモスタット」)がありますが、これは「蛋白分解酵素阻害剤(たんぱくぶんかいこうそそがいざい)」と呼ばれています。推測ですが、この薬はトリプシンをターゲットにしているのではないでしょうか。トリプシンの発生をなるべく抑えることでトリプシンが活性化させる他の酵素の働きをも抑えるという狙い。これもカッコイイですね。トリプシンは膵臓以外にはほとんど存在しない酵素でもあるので、膵炎の代表的な薬がそのような膵臓に特化した酵素をターゲットにしていることはありそうですね。
トリプシンの正常値は100~550ng/ml (RIA法)ということです。

リパーゼ

 リパーゼは脂肪を分解する代表的な酵素です。さて、脂肪が胃を通過して十二指腸に送られると、まず胆汁が排出されます。脂肪は水に溶けにくい物質で、そのため胆汁の働きでまず「乳化」されます。そこで膵臓からのリパーゼが働いて脂肪を消化します。
リパーゼもアミラーゼ同様、そのままの状態で膵臓内に存在します。この酵素も膵臓に固有なのでリパーゼの異常は膵臓の異常ということにつながりやすいようです。
 リパーゼの基準値は下は資料によって幅があり10から45位までで、上は50くらいです。ですから大きくとると10~50IU/Lということでしょうか。もし急性膵炎になるとその値が4~5倍に上昇し、慢性膵炎の時には2、3倍に上昇したまま持続するそうです。
リパーゼと検査についての解説サイト

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