慢性膵炎ノート

明るく!慢性膵炎生活

慢性膵炎の診断基準 (その4)

2009年の臨床診断基準が最新のものですが、参考として、それ以前の診断基準も掲載します。

日本膵臓学会による2001年の診断基準(参考)

<慢性膵炎の臨床診断基準>
慢性膵炎の臨床診断基準は、腹痛や腹部圧痛などの臨床症状あるいは膵外・内分泌機能不全にもとづく臨床症候がみられる症例に適用する。しかし、慢性膵炎のなかには、無痛性あるいは無症候性の症例も存在するので、そのような症例に対しては、より厳格に臨床診断基準を適用し、期間をおいて複数回検査する。
診断基準の各項目は検査手順のおよその順序に列記するが、各項目はそれぞれ独立したものである。

1. 慢性膵炎の確診例 (definite chronic pancreatitis)
(1a)  腹部超音波検査(US)において、音響陰影を伴う膵内の高エコー像(膵石エコー)が抽出される。
(1b)  X線CT検査(CT)において、膵内の石灰化が抽出される。
(2)  内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)像において、次のいずれかを認める。
   ( i )   膵に不均等に分布する、不均一な分枝膵管の不規則な拡張。
   ( ii )  主膵管が膵石、非陽性膵石、タンパク栓などで閉塞または狭窄しているときは、乳頭側の主膵管あるいは分枝膵管の不規則な拡張。
(3)   セクレチン試験において、重炭酸塩濃度の低下に加えて、膵酵素分泌量と膵液量 の両者あるいはいずれか一方の減少が存在する。
(4)   生検膵組織、切除膵組織などにおいて、膵実質の減少、線維化が全体に散在する。膵線維化は不規則であり、おもに小葉間に観察される。小葉内線維化のみでは慢性膵炎に適合しない。

このほか、蛋白栓・膵石と、膵管の拡張・増生・上皮化生、襄胞形成を伴う。

2. 慢性膵炎の準確診例 (probable chronic pancreatitis)
(1a)  USにおいて、膵内の粗大高エコー、膵管の不整拡張、辺縁の不規則な凹凸がみられる膵の変形、のうち1つ以上が描出される。
(1b)  CTにおいて、辺縁の不規則な凹凸がみられる膵の変形が描出される。
(2)  MRCPにおいて膵全体に不均一に分布する分枝膵管の不整な拡張、または主膵管の狭窄より十二指腸乳頭側の主膵管および分枝膵管の不整な拡張が見られる。
(3)  ERCP像において、主膵管のみの不規則な拡張、非陽性膵石、蛋白栓のいずれかが観察される。
(4a)  セクレチン試験において、重炭酸塩濃度の低下のみ、あるいは膵酵素分泌量と膵液量が同時に減少する。
(4b)  BT‐PABA試験における尿中PABA排泄率の低下と便中キモトリプシン活性の低下を同時に2回以上認める。
(5)   膵組織像において、線維化がおもに小葉内にあるが膵実質脱落を伴う病変、ランゲルハンス島の孤立、仮性襄胞のいずれかが観察される。

解説1.
USまたはCTによって描出される、 1)膵嚢胞、2)膵腫瘤ないし腫大、および 3)膵管拡張(内腔が2mmを超え、不整拡張以外)は膵病変の検出指標として重要である。しかし、慢性膵炎の診断指標としては特異性が劣る。従って1)2)3)の所見を認めた場合にはERCPを中心とし、各種検査により確定診断に努める。
ERCP像の読影は、過剰に加圧されず、分枝膵管まで造影されている膵管像につい て行われることが望ましい。
セクレチン試験の方法や正常値については、日本消化器病学会膵液測定検討小委員会の最終報告(日消誌84:1920-1987)に準ずる。また膵外分泌機能検査は膵病変の質的診断能が劣ることに注意する。

解説2.
(*1)  "不均"とは、部位により所見の程度に差があることをいう。
(*2)  "不規則"とは、膵蕾径や膵哲壁の平滑な連続性が失われていることをいう。
(*3)  BT‐PABA試験(PFD試験)における尿中PABA排泄率の低下とは、6時間排泄率70%以下をいう。

解説3.
MRCPについては以下、
1)磁場強度1.0テスラ(T)以上、傾斜磁場強度15mT/m以上、シングルショット高速SE法で撮像する。
2)上記条件を満足できないときは背景信号を経口陰性造影剤の服用で抑制し、膵管の摘出のためセクレチン投与、呼吸同期撮像を行う。

注1. 本臨床診断基準で確診、準確診に合致しないことのある膵臓の慢性炎症には次のものがある。

・慢性閉塞性膵炎
明らかな膵管閉塞・狭窄部の上流の膵管系に拡張した分枝膵管が限局して存在する。

・膵管狭窄型慢性膵炎
膵管系全体が狭窄を示し、自己免疫異常の関与が疑われる。病態については今後検討を要する。

注2. 上腹部痛・圧痛が持続または再発継続しており、血清膵酵素の異常を伴う症例を臨床上慢性膵炎の疑診例(possible chronic pancreatitis)と-時的に呼ぶことができる。ただしこれらの症例は膵に関する各種検査に異常をみることがあるが、慢性膵炎確診、準確診に該当しないものである。

注3. 腫瘤形成性膵炎
形態上腫瘡を形成する膵炎を認める。多くは慢性膵炎確診、準確診に合致するが、該当しない例も認められる。


日本消化器病学会の1983年の定義(参考)

かなり古いものですが、日本消化器学会による慢性膵炎の臨床診断基準です。(1983)

①膵組織像に確診所見がある。
②膵に確実な石灰化像がある。
③膵外分泌に確実な機能障害がある。
④膵管像または膵画像に確診所見がある。
⑤膵酵素逸脱を伴う上腹部痛・圧痛が6か月以上持続または継続し、膵機能、膵管像、膵画像あるいは膵組織像に細則に示す異常所見がある。
①~④の項目を一つ満たせば慢性膵炎(Ⅰ群)、⑤を満たすものは慢性膵炎(Ⅱ群)とする。
なお上記の診断基準を満たさないが、自・他覚所見、細則に示す参考所見、治療効果、除外診断などを総合して慢性膵炎を否定しがたい例は、臨床的疑診とする。上記の診断基準を満たす場合でも、膵領域腫瘍およびそれに随伴する病変は除くものとする。

「難病情報センター」の定義

難病情報センターとは、財団法人難病医学研究財団(いわゆる厚生労働省の外郭団体)と厚生労働省健康局疾病対策課が運用しているサイトで、国が難病と指定している123の「特定疾患」(=難病)に関する情報を提供しています。慢性膵炎はその123の特定疾患の1つであり、国が認める正式な難病です。
難病情報センターには一般向けと医療従事者向けの2種類の説明があります。
まずは、一般向け。
慢性膵炎とは、


「食物を消化する消化酵素(アミラーゼ・トリプシン・リパーゼなど)と血糖値の調節を行うホルモン(インスリン・グルカゴン)を分泌する臓器である膵臓に繰り返し炎症が起こり、次第に膵臓の細胞が破壊され線維に置き換わり、膵臓全体が硬くなって萎縮していく病気です。膵臓の中に石が出来る(膵石)こともあります。慢性膵炎の早い時期では腹痛が主な症状ですが、膵臓が高度で広範囲に破壊されますと、一般に腹痛は軽減します。しかし、消化酵素の分泌が低下して消化吸収障害(脂肪便)が出現しますし、インスリンの分泌が低下すると糖尿病になります。」

次に医療従事者向け。

「- 概念・定義 -
 膵臓の内部に、不規則な線維化、細胞浸潤、実質の脱落、肉芽組織などの慢性変化が生じ、膵臓の外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である。慢性炎症での膵内部の病理組織学的変化は、基本的には膵臓全体に存在するが、病変の程度は不均一で、分布や進行性も様々である。これらの変化は、持続的な炎症やその遺残により生じ、多くは非可逆性である。
 慢性膵炎では、腹痛や腹部圧痛などの臨床症状、膵外・内分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的であるが、無痛性あるいは無症侯性の症例も存在する。」



ちなみに、国は「難病」の基準として、


「原因不明、治療方法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病(例:ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エ リテマトーデス)、経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病(例:小児がん、小児慢性腎炎、ネフローゼ、小児ぜんそく、進行性筋ジストロフィー、腎不全(人工透析対象者)、小児異常行動、重症心身障害児。」

としています。(昭和47年10月 『難病対策要綱』)

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